「乗り換え」の駅前

このアパートに越してからおよそ5年になるだろうか…。
近所に5年程度いたから、ここ板橋では10年にもなる。渋谷生まれの渋谷育ちのボクにとって、山手線から外れた駅はみんな「いなか」に思えた。乗り換えて他の電車に乗る、というのが少年・マサミ君には多少の緊張感が伴う。別の世界、という気持ちがしてきたものだ。
乗り換えて…。なんだか、とっても遠くに行く気がした。あたかも「いなか」に旅するような、そんな気持ちになる。
こんなこともあった。ともだちの家に行くときのことだ。
渋谷から池袋で私鉄に乗り換えてみたけれど、この電車、目的の駅は通過する急行だ、という。だから、また途中で下車して、ドン行が来るのを待つ。この待ち時間が、長々しく感じる。結局、ともだちの家の着くのは渋谷から40分程度かかった…。その40分が少年だったボクには、とっても長い旅に感じた。
遠くに来た感じだった。

繁華街がふるさとのボクにとっては、あの頃、板橋という地名すら探し出すのは難しかったのに…。
この板橋駅付近の食堂は、とにかく安い。とくに中華店はこぞって安さを売り物にしているのかとさえ思える。手作り餃子が100円のお店は、れっとした中国飯店。気の優しい中国人が料理してくれる。
板橋駅の裏側にある中国料理店の黒酢がけ豚肉は、赤坂あたりなら優に3000円以上はするだろうが、900円程度で食べられる。そもそも、900円程度の料理はここ板橋では、超高級料理である。だから、いつも満席だ。

板橋駅前、いつも会社からクルマで通っている通り道。気がつくのが遅かったが、夜になるとイルミネーションが付いた両側の街灯が光る。夕方まで開けていた各お店が閉まってイルミネーションだけが光る。その光景はまるで、韓国ドラマでも見ているような、そんな夜道だ。

さて、今日の夕暮れ。
ガソリンを入れたスタンドが大きな交差点で右折しずらかったので左折。そのまま走らせたが、なんとなく流れに従って走りたくなり、そのまま流れに乗ってみたら、十条駅に出た。
ここは数えるほどしか来たことのない場所。路上の300円駐車にクルマを置いて、駅前通りを歩く。
すると、いろいろ、見つけた。
昔渋谷で見かけた「喫茶店」があったから、当然入った。40年以上も前からそのままにしています、と店員さんが言う。お肉屋さんか? メンチカツが105円。ソースをかけますか? と聞かれたから、ハイ、と答えた。歩きながら食べた。和菓子屋さん、お惣菜屋さん、おでん屋さん…。すごく楽しくなって、歩きながら、次々に食べて歩いた…。

昨日の深夜まで、書かなければならない原稿のための、資料を読んでいた。
ともだちがこんなことを言う。「出版業界っていま大変らしい。雑誌は全然売れないらしいよ。編集者は仕事が減ったって」と言う友だちに、ボクは「そういえば、電車で夕刊紙を読んでいる人が少なくなったねぇ。雑誌を読んでいる人も見かけないしねぇ」「パソコンでほしい情報がタダ見られるから、ね…」
「でも…」

言いかけて、止めたがボクが言いたかったことは「本はなくならない」ということ。
読書だけなら、たしかにPCでも出来るだろう。新潮社でも数年前まで、そんなソフトを販売していた。
でも、読書体験となると話は違ってくる。
本を手に取る。ページをめくる。自分のスピードで文字を追いかけてる。そして、読書ならではの至上のよろこび、想像の世界がいつでも広がっていく…。
読書とは、単なる理解の作業ではない。そして、気に入った本は書棚に置く。この体験はパソコンでは到底できるものではない。

渋谷から「乗り換え」して行ったところは、ボクには遠くの街であり、「いなか」に感じた。
その渋谷はもう、ボクの住んでいたふるさとではない。あの頃の面影はもうどこにもない。都会の変貌は早い。新しいモノが、すくに古くなるのが都会なのだろう。
でも、十条駅前とかここ板橋駅前は、この10年、さほどの違いはない。大山商店街というのが近くにあるという。ここもまた、昔から変わらずの繁華街だという。巣鴨駅前には地蔵通りというのがあって、年配者の散歩道で連日賑わっているとも聞いた…。

変わるモノが新しいモノであり「メジャーだよ」というなら、ゆったりとした時間が流れる場所、「マイナー」が残っているのもまた、東京の実像である。
元経済記者として、これだけは言える。「流行」「メジャー」の方が「カネ」になる、ということだ。ただし、消費が伴っていれば、という最低条件が満たされないと「経済活動」は成立しないが…。
あたかも渋谷、原宿、青山付近が「メジャーな場所」で「勝ち組」であるかのように思い込んでいる若い人たちがいるという。そういう若い人たちはおしなべて遠くから何回か「乗り換え」をして、ようやく東京に住むことになった人たちではないのか。PC広告や販売過多の雑誌などを見ている人たちなのだろう。消費はこういう人にお願いするが、案外そんな若い人たちって、「東京」を知らないのかもしれない。

これもまた、格差社会が生んだ実にこっけいな現象なのだろう。雑誌やパソコン情報もいいけれど、ふらっと流れに乗ってみると「不思議な国のアリス」を体験できるおもしろさ…。それが出来るのは、大都会・トウキョウであり、ニューヨークだ。
渋谷がメジャーで板橋はマイナーという区別の仕方がボクはおかしくて、おかしくて。
笑わずにはいられない…。

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…まさみ…
by masami-ny55 | 2008-12-13 23:58 | 日記


東京の日常生活と、仲間たちとの交遊録


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