てらサンの「カレー」と「天城越え」
昨日の晩、事務所に現れたのは、ユカリちゃんでした。
ユカリちゃんって、「気をつけ!」すると、雪ダルマさんみたいなのです。
こんな悪態をついても、ユカリちゃんは「いいの、いいの、だって私、そうなんだモン」
と、軽くわかしてくれる素敵な現代女性です…
独身。おつとめは、ボクが生涯買わないであろう大手自動車メーカーで広報担当をしています。仕事の性格上か、それとも天性なのか、彼女の特技は、お話すること。しゃべり出したら誰も彼女を止められません… ハイトーンの声が一定に定まって話し始めたら、スイッチ、オン!
特技はもうひとつ、あります。
それは、世にも珍しい…見たことのない風景が、ボクたちの目の前に現れます。
なんだと思いますか?
それはそれは、スゴイのですよ。ユカリちゃんの「カラオケ」です。
彼女の「カラオケ」を見たのは、いまから7年前のことでした…
ボクは生まれて初めて、歌を「見た!」という貴重な体験をしました。「聞いた!」のでは、ないのです。誤解のないように…
その歌は、「天城越え」でした!
…
恨んでも恨んでもからだうらはら
あなた…………山が燃えるぅ~
戻れなくてももういいのぉ
(と、ここまで見たたけでもボクの全身は汗だくだったのに
…この次がスゴかった!)
クラクラ燃える地をはって
あなたと越えたい 天城越えぇ~~
この最後の、「天城越えぇ~~」
が、振り付き、なのですよ、振り付き…雪ダルマの右手がボクの方にまっすぐ伸びてきて、やがて上にあがっていくのですぅ。歌詞が…18禁みたいだし、歌っているのは、雪ダルマちゃん。なんとも、このミスマッチが、これまた…悪夢です。
そうです、雪ダルマの熱演演歌をボクは生涯忘れることが出来なくなった。
残像が、この目の奥にしっかりと刻まれて、記憶されたのです。
ふっと気がついたら、隣で一緒に「見ていた」カナちゃんの細っこい腕に、しがみついていたボクでした。
「買いますね、ウチのクルマ…」
と、この瞬間ユカリちゃんにじっと見つめられて、こう言われたら、
「買います買います買います」と、三度は返事していたことでしょう…。
…こわかった。
音楽が、こわい…
オペラでは、こわい体験のアリアやアンサンブルは、しょっちゅう聞いてきたけれど、こわい、意味が違っています。背筋から汗…でした。
このとおり、とにかくユカリちゃんはボクの大のお気に入り、の女性です。働き者で、サービス精神は人一倍。人の面倒は、我が事のようにかかわってくれます。そのうえ、見た目はみんなに親しまれる…なんで独身なのか、ボクには理解不明。運転は上手だし、出張すればお土産を買ってきてくれるやさしい人なのです。
「まさみさん、カレー食べましょうよ」
と、事務所に現れたユカリちゃんは、こう誘ってくれます。
「カレー?」
で、ボクのグロリアを、
「疲れてるでしょ、道は私がわかってますから…」
と、さっさとキーを取り上げて、運転席へ。ボク、助手席。
東名道路を走り抜けます。「川崎」で降りました…
この間車内では、ユカリちゃんの独壇場です。もっぱらボクは聞き役担当。
「フンフン…なるほど…あッ、そう…わかる…で…そうね…しらなかった…へーーッ」
これだけの単語さえ知っていれば、ユカリちゃんとお友達になれるのです。
どうやら、目的地の「カレー屋さん」に到着したようです。
「路上駐車は最近厳しくなった」
という理由から、隣に立っていたパソコンショップのビルにある駐車場に乗り入れです。
「これで大丈夫、私もいつもこうしてるから」
「あッ、そう」
カレー屋さんは、連想していたカレー屋さんではなかった!
渋谷の「いんでいら」みたいなお店を連想していたのだが、大違い。
本格派のタイカレー、でした。
扉を開けたとたん、タイ独特の香辛料の香りがお店に染みついているほどです…
店内はテーブルはなくて、「コの字型」にカウンターが創ってあります。
ひとつひとつが、どことなく…洒落てる。
カウンターの中で、カレーを作っていた男が、こちらを振り向いた…
「あッ、てらサン!」
「どうもどうも、ひさしぶり」4年ぶりか…
てらサン。
ボクはこの人を、芸術家として認めている。日本カレンダー大賞も受賞。アメリカのデザイン会社でもその腕前は評価済み。乃木坂に事務所を構えていた頃、ボクと出逢った…
その男が、突然事務所を閉じたのは、4年前のこと。
「カレー屋をやるらしい」
との噂も聞いていた。そして、てらサンは、全財産をなげうって、このお店を開店したのだ。
てらサンが作ったカレーを食べた。
ホントにボクは、涙をこらえるのが精一杯だった。
うまい。凝り性のてらサンならではの本格派カレーだった。
お皿のひとつひとつといい、タレといい…随所にてらサンの気性を感じるから、危なく涙がこぼれそうになる…我慢しなくては。
「うまいよ、これ…」
月並みな言葉しか出ない自分が、恥ずかしい。
もう死にそうだよ…と、てらサンはこぼす。
例の駐車管理が厳しくなった今日、店の前に路上駐車してまで、ここのカレーを食べに来るお客はいなくなった、というのだ。「お昼の売り上げが、いままでの三分の一だよ…ひどい、よ」
せっかく開店したカレー屋なのに。
デザイン業務を廃業してまでこの仕事に乗り換えたのに…
「時代、かな…」
てらサンはそう呟く。まるで、いまのボクとおんなじだ…
記者と作家生活もやめてまで、今の会社を創ったボクと立場はおんなじだ。
「時代、かな…」
てらサンに頼んでみた。
「ユーガットメールのチラシ、作ってよ」
「…」
しばらく黙っていたてらサンは、「…で、いつまで欲しいの?」
「来週」「んーー、無理だよ、もう少しだけ時間をくれる? なら、やるから」
「わかった」
話は、これだけだった。
隣にいたユカリちゃんは、ボクとてらサンの会話を、じっと見守ってくれていた…
ユカリちゃん宅はこの店の近くなので、お母さんが迎えに着たクルマで帰った。
ボクの帰り道は、ひとりだ。
深夜の東名高速を池袋方面に走り続けた…
慣れない道だった。トラックが多くて、運転もままならない…
高速道路なのに、カーブが多く、ブレーキとアクセルを踏み分けて、慎重な運転を強いられる…
これが、生きる、ってことか…
てらサンの「カレー」とユカリちゃんの「天城越え」は、どっちもボクの大切な、大切な「宝物」なのであります。生きる人の「味」がしてくるのです。
今日の朝、メールがあった。てらサンからだった。
「元気そうで安心しました」
と、書いてあった。…それは、こっちの台詞だぜ、てらサン。
近々、またタイカレーを食わせてもらいに行きますから。
大勢連れて、満席状態にしてあげよう。迷惑そうな顔するだろうな、職人気質の、てらサンは。
でも、きっと、よろこんでくれるはずだ。
今のボクが、てらサンに出来ることは、これだけ、だから…
てらサンの「カレー屋」を公開します!
http://blog.livedoor.jp/yimyeem/
です。
…まさみ…
ユカリちゃんって、「気をつけ!」すると、雪ダルマさんみたいなのです。
こんな悪態をついても、ユカリちゃんは「いいの、いいの、だって私、そうなんだモン」
と、軽くわかしてくれる素敵な現代女性です…
独身。おつとめは、ボクが生涯買わないであろう大手自動車メーカーで広報担当をしています。仕事の性格上か、それとも天性なのか、彼女の特技は、お話すること。しゃべり出したら誰も彼女を止められません… ハイトーンの声が一定に定まって話し始めたら、スイッチ、オン!
特技はもうひとつ、あります。
それは、世にも珍しい…見たことのない風景が、ボクたちの目の前に現れます。
なんだと思いますか?
それはそれは、スゴイのですよ。ユカリちゃんの「カラオケ」です。
彼女の「カラオケ」を見たのは、いまから7年前のことでした…
ボクは生まれて初めて、歌を「見た!」という貴重な体験をしました。「聞いた!」のでは、ないのです。誤解のないように…
その歌は、「天城越え」でした!
…
恨んでも恨んでもからだうらはら
あなた…………山が燃えるぅ~
戻れなくてももういいのぉ
(と、ここまで見たたけでもボクの全身は汗だくだったのに
…この次がスゴかった!)
クラクラ燃える地をはって
あなたと越えたい 天城越えぇ~~
この最後の、「天城越えぇ~~」
が、振り付き、なのですよ、振り付き…雪ダルマの右手がボクの方にまっすぐ伸びてきて、やがて上にあがっていくのですぅ。歌詞が…18禁みたいだし、歌っているのは、雪ダルマちゃん。なんとも、このミスマッチが、これまた…悪夢です。
そうです、雪ダルマの熱演演歌をボクは生涯忘れることが出来なくなった。
残像が、この目の奥にしっかりと刻まれて、記憶されたのです。
ふっと気がついたら、隣で一緒に「見ていた」カナちゃんの細っこい腕に、しがみついていたボクでした。
「買いますね、ウチのクルマ…」
と、この瞬間ユカリちゃんにじっと見つめられて、こう言われたら、
「買います買います買います」と、三度は返事していたことでしょう…。
…こわかった。
音楽が、こわい…
オペラでは、こわい体験のアリアやアンサンブルは、しょっちゅう聞いてきたけれど、こわい、意味が違っています。背筋から汗…でした。
このとおり、とにかくユカリちゃんはボクの大のお気に入り、の女性です。働き者で、サービス精神は人一倍。人の面倒は、我が事のようにかかわってくれます。そのうえ、見た目はみんなに親しまれる…なんで独身なのか、ボクには理解不明。運転は上手だし、出張すればお土産を買ってきてくれるやさしい人なのです。
「まさみさん、カレー食べましょうよ」
と、事務所に現れたユカリちゃんは、こう誘ってくれます。
「カレー?」
で、ボクのグロリアを、
「疲れてるでしょ、道は私がわかってますから…」
と、さっさとキーを取り上げて、運転席へ。ボク、助手席。
東名道路を走り抜けます。「川崎」で降りました…
この間車内では、ユカリちゃんの独壇場です。もっぱらボクは聞き役担当。
「フンフン…なるほど…あッ、そう…わかる…で…そうね…しらなかった…へーーッ」
これだけの単語さえ知っていれば、ユカリちゃんとお友達になれるのです。
どうやら、目的地の「カレー屋さん」に到着したようです。
「路上駐車は最近厳しくなった」
という理由から、隣に立っていたパソコンショップのビルにある駐車場に乗り入れです。
「これで大丈夫、私もいつもこうしてるから」
「あッ、そう」
カレー屋さんは、連想していたカレー屋さんではなかった!
渋谷の「いんでいら」みたいなお店を連想していたのだが、大違い。
本格派のタイカレー、でした。
扉を開けたとたん、タイ独特の香辛料の香りがお店に染みついているほどです…
店内はテーブルはなくて、「コの字型」にカウンターが創ってあります。
ひとつひとつが、どことなく…洒落てる。
カウンターの中で、カレーを作っていた男が、こちらを振り向いた…
「あッ、てらサン!」
「どうもどうも、ひさしぶり」4年ぶりか…
てらサン。
ボクはこの人を、芸術家として認めている。日本カレンダー大賞も受賞。アメリカのデザイン会社でもその腕前は評価済み。乃木坂に事務所を構えていた頃、ボクと出逢った…
その男が、突然事務所を閉じたのは、4年前のこと。
「カレー屋をやるらしい」
との噂も聞いていた。そして、てらサンは、全財産をなげうって、このお店を開店したのだ。
てらサンが作ったカレーを食べた。
ホントにボクは、涙をこらえるのが精一杯だった。
うまい。凝り性のてらサンならではの本格派カレーだった。
お皿のひとつひとつといい、タレといい…随所にてらサンの気性を感じるから、危なく涙がこぼれそうになる…我慢しなくては。
「うまいよ、これ…」
月並みな言葉しか出ない自分が、恥ずかしい。
もう死にそうだよ…と、てらサンはこぼす。
例の駐車管理が厳しくなった今日、店の前に路上駐車してまで、ここのカレーを食べに来るお客はいなくなった、というのだ。「お昼の売り上げが、いままでの三分の一だよ…ひどい、よ」
せっかく開店したカレー屋なのに。
デザイン業務を廃業してまでこの仕事に乗り換えたのに…
「時代、かな…」
てらサンはそう呟く。まるで、いまのボクとおんなじだ…
記者と作家生活もやめてまで、今の会社を創ったボクと立場はおんなじだ。
「時代、かな…」
てらサンに頼んでみた。
「ユーガットメールのチラシ、作ってよ」
「…」
しばらく黙っていたてらサンは、「…で、いつまで欲しいの?」
「来週」「んーー、無理だよ、もう少しだけ時間をくれる? なら、やるから」
「わかった」
話は、これだけだった。
隣にいたユカリちゃんは、ボクとてらサンの会話を、じっと見守ってくれていた…
ユカリちゃん宅はこの店の近くなので、お母さんが迎えに着たクルマで帰った。
ボクの帰り道は、ひとりだ。
深夜の東名高速を池袋方面に走り続けた…
慣れない道だった。トラックが多くて、運転もままならない…
高速道路なのに、カーブが多く、ブレーキとアクセルを踏み分けて、慎重な運転を強いられる…
これが、生きる、ってことか…
てらサンの「カレー」とユカリちゃんの「天城越え」は、どっちもボクの大切な、大切な「宝物」なのであります。生きる人の「味」がしてくるのです。
今日の朝、メールがあった。てらサンからだった。
「元気そうで安心しました」
と、書いてあった。…それは、こっちの台詞だぜ、てらサン。
近々、またタイカレーを食わせてもらいに行きますから。
大勢連れて、満席状態にしてあげよう。迷惑そうな顔するだろうな、職人気質の、てらサンは。
でも、きっと、よろこんでくれるはずだ。
今のボクが、てらサンに出来ることは、これだけ、だから…
てらサンの「カレー屋」を公開します!
http://blog.livedoor.jp/yimyeem/
です。
…まさみ…
by masami-ny55
| 2006-06-29 04:26
| 日記