子規と律さん

仰臥漫録(ぎょうがまんろく)は正岡子規の闘病記だ。
人が生きるとはどんな姿か…を、これほど真正面から実践した人はいない。それをありのまま書き残した人もまた、いない。

ボクにとっての子規は、避けてきた人、だった。青春真っ只中の頃。もっとも無知で自意識過剰時代、青春…。その頃はだいたいの若者は異性がどうこうした、なんて物語を実践してしまう。愛こそすべて、みたいな勘違いの生き方を「善し」と思いがちだ…。なので、病気と闘った文人の書には、さほど魅力すら感じなかったし、じつは怖かった。うかつに「命」を論じる知恵もない…。

しかし、人生の歳を重ねたいま、子規はボクにとって「生きる豪傑」「生きる教師」「生きる手本」です。子規の前では、史上のいかなる豪傑、武将でもひれ伏すしかない。これほど生きる力を見せつけてくれた人は後にも先にも子規ひとりだけだ。子規の書き残したモノは、文芸作品などと曖昧な言い方では位置づけられない。ズバリ、生きる教材、だろう。男気、希望、友情、夢、旅、出逢いと別れ、希望と絶望、歓喜と落胆…すべて色濃く描いたし、また子規は事実、そう生き抜いた。

日本がまだ近代国家としては若かった頃。明治のはじめ、数多くの武人、文人が出たが、ボクにとって、子規はその中でもっとも輝いてみえる。

子規はその生涯で、いちども変えることがなかった志が、あの「写実」である。いやいや、そもそも「写実」とはなにか、を創り、完成させた人だ。現実をあるがまま受容する、ということ。わかるようだが実際は、なかなか難しい。だから習得するのに、時間がかかる。とくに、自分を知識階級と思っている人たちには、とくにそのようである。

子規にとっての観察とは、写実を作り出す手段だった。
目の前にある現実を、あるがまま写し取る…。痛みも、力も、叫びも、悔しさも、喜びも…色も形も、味も香りも…生きているこの世界をすべて、受け入れる。そこには、是非もなく、勝ち負けもなく、支配欲も所有欲もない…。そこにある全部を受け取る。まるで、飛んできた球をそのままキャッチするかのように。

自分の身体が自分では動かせけない床の上の世界が、子規のすべての世界だった。
ちっちゃな布団、そして愛用の地球儀…。

ボクは生きるために、いまこの病院にいる。
退屈する贅沢がある。子規の生き様と比べたら、ボクのがん病など、取るに足りぬだろう。なんとでもせい、と言う子規の声が聞こえてきそうだ…。

あれだけの病状でありながら、あれだけ自由を謳歌できたのには、訳がある、というのがボクの言い分だ。子規が生涯、あんなにも自由で生き続けられたのは、妹・律のおかげである。これだけは、間違いない、とボクは思う。だから、ボクは律さんが大好きだ。
あんな凄い妹をさずかった子規兄ちゃんがボクは、うらやましい…。できることなら、ボクはこのいまの世で「律」に会いたい。
…律。とってもとっても、不思議な女性、律さん。

子規が生きた時代には、まだペニシリンという特効薬がなかった時代だったから、子規の身体は結核菌に犯され、首、腹、尻などから膿が皮膚を切り裂き、破裂して穴が空いた。痛い、という範囲はもうとっくに超えている。その痛みから子規は、無念さと、悔しさ…あらやる「毒」を体験したむことだろう。
子規は痛みを我慢なんかしなかった。怒鳴り声を上げてうめき、叫んだ。痛みがないとき、俳句と写実画に没頭している…。そして、35歳の若さで世を去ってしまった…。

親友の秋山真之も、49歳の若さで他界した。原因は、盲腸炎である。

結核、盲腸炎…。もし、現代だったらこんなもの、木っ端微塵に粉砕してやる!
それがボクは悔しい…。不治の病、も、時が過ぎれば危険ランクの病から、快復できる病気にランクが下がる。このボクの「がん」もしかり、だ。

子規が居なくなって、漱石が居なくなって、真之が居なくなって、日本はあの頃よりも本当に「豊か」になったのだろうか…。医学は進歩し、明治の頃より人の命が延びている。人はあの若き時代・明治の頃に比べれば、戦さ場に送られることはないし、難病と闘う人々も激減した。

だが、現代日本には「子規」が居ないし、「真之」も「漱石」も居ない。
まして、ボクがあこがれる人・「律さん」の影は、もうどこにも見当たらない。探しようもない…。

あの時代よりも、ボクの生きている時代では、人は生きている時間が長い。
でも、明治の若者たちが命を賭けてまで望んだ「豊かな国」になっているのか…

戦いのない、だれもが「自由」を謳歌する「平らな世界」になったのか…。

律さん、まだまだボクは生きてみますので、頑張れ、と声を掛け続けて下さいね。


…まさみ…
by masami-ny55 | 2014-06-24 21:19 | 日記


東京の日常生活と、仲間たちとの交遊録


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