「岡田のヨイトマケ」考

本公演の練習中でした…。
岡田誠君が涙で息が詰まって、歌っている途中でつぶれてしまい、最後まで歌いきれないのです。
「ヨイトマケの唄」の練習中のことでした…。
「すみません…」
そういう言葉さえ、涙でかすれて聞こえないほどでした。実はお母様を今年亡くしました。本公演第1回から昨年第7回まで、陰になって支えてくださったのは岡田君のお母様でした。ガンでありながら、闘病生活の中で本公演を支え続けてくださいました。スタッフの人数分の手焼きのケーキを持ってきていただいたり、たくさんのお客様を呼んでくださったり、その思い出は尽きません…。
岡田君とはもう十年以上の付き合いになります。彼がどれほど親思いの男であるか、ボクはよく知っています。そんな彼にボクは今回、「ヨイトマケの唄」全曲を歌うように指示しました。もちろん歌詞は承知の上です。
「ヨイトマケの唄」をボクがはじめて聞いたのは、青春ど真ん中の頃です。妙に親近感を感じました。
ボクの実家は渋谷で、家業は土建屋です。毎朝、大勢の男たちが食堂に集まって、母親と男達の奥様たちが作った食事を食べる…これがボクの子供の頃の朝の風景です。そして、渋谷にビルや道路が造られていく時、「ヨイトマケ」を綱で縛り付け、力を合わせて大地に杭を打ち込む大勢の土方衆をあちこちで見かけたものでした…。実家の家業がこれでしたから、小学生時代から工事現場には親近感を感じていました。
さて、この「ヨイトマケの唄」ですが、「歌」ではなくて、「唄」だと思います。小唄、長唄という「唄」です。「語り」だと思うのです。人の生きる姿を語った、物語、だと。初めて聞いた時もそうでしたが、今でもこの唄を聞くとあの頃の風景が鮮明に蘇ってきます。それほど強烈にイメージできる物語…。
この歌は、浄瑠璃でも見ているように演奏した方が自然な感じがするのです。ですからこの曲を演奏する際、ピアノはピアノをしてはいけないと思いました。けっして西洋的音楽演奏ではない、と。
主旋律があって、主旋律に影響されない演奏。明確にリズムを刻んで描く弾き方ではない。浄瑠璃のように「語り部」の声量と声質の変化が「仕手」(リード)になり、三味線の音はピアノに変えて歌声を支える。語り部を岡田君が担当して、和楽器の全てのハーモニーをピアノ1本が担当する。浄瑠璃人形は観客の「イメージ」だ、と。そんな感じに仕上げるべきではないか、と。
岡田君の歌声にはいつも感動させられます。彼の歌声はなぜ、あれほど人々の心を掴んで離さないのでしょうか? この人は心の変化を素直に表現する声楽家だからだと思います。楽しい感じの曲には楽しく、悲しい曲は悲しそうに、その体験をそのまま声に託しているからだと思います。そんな彼だから、練習中でさえ涙が止まらなくなってしまったのでしょう。彼がミュージカル界で一躍スターダムにのった「オケピ!(三谷幸喜演出)」で超ド派手に歌った「俺たちはサルじゃない」もまた、心で歌いあげたからであって、その好結果はボクに言わせれば当然の結果です。あのバカバカしいほどの楽しさは、体験言語を最優先する声楽家である彼にとっては、当然の結果なのです。
この「ヨイトマケの唄」は美輪明宏さんがまだ丸山明宏時代の唄です。
昭和39年「東京オリンピック」の年に発表された曲です。この年を境にして、日本は高度成長経済に突入していきました。やがてこの頃から日本だけでなく、全世界の大学では学園紛争が起こり、団塊の世代たちは行き場に当惑していきました。急速すぎる経済成長と伝統的社会生活のひずみが現れた時代になります…。戦後生まれの子供達の親は、戦時中に青春だった若者です。その親たちは、努力と我慢を美徳とした世代です。生きること、生き続けることだけが精一杯だった戦中派。働くこと、もっと働くこと。チョコレートパフェをナメながら、悠長に、しあわせを論じている暇などありません。まして、自己表現などという民主的な生き方を知らない世代です。だからこそ彼らは、我が子だけには自分がやり残したことをさせてあげたい、と切望しました。その爆発音が「ヨイトマケの唄」だと、ボクはいまになってあらためてそう感じます。日本人の実生活から生まれている音と声、その風景…。
さあ皆さま、ここはひとつ岡田誠が連日稽古して精進した「岡田のヨイトマケ」を聞いてあげてくださいませ。
皆さまの心に「なにか」が映し出されたら、岡田君もきっと幸いでしょう。


…まさみ…
by masami-ny55 | 2010-07-27 23:58 | 日記


東京の日常生活と、仲間たちとの交遊録


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